先月末に刊行された『うまれたよ!アブラムシ』(岩崎書店)。
本書に登場するアブラムシは、カラスノエンドウ、ソラマメ、ナンテンハギなどにつく、ソラマメヒゲナガアブラムシ。身近な草地環境で普遍的に見られるアブラムシだから、多くの人の目に触れる機会は多いはずだ。
しかし、あえてこの小さなアブラムシをマジマジと見つめ、その姿をしっかり目に焼き付けるという経験をお持ちの方はいかほど居るだろう。
それはともかく、数年前のこと版元編集者の方から「アブラムシを是非、形にしたい」と声をかけていただいた時に私は躊躇した。
躊躇した理由の一つは、アブラムシでは有性世代と無正世代があること、季節により寄主転換を行うことなど生活史が複雑で、700種以上いるとされるアブラムシのどれを選択しても、30頁前後の絵本にまとめるのは難しいという思いがあったからだ。
成虫の姿一つとっても無翅型と有翅型があったりで、暮らしの端々で説明を要することが多いのがネックだった。
「うまれたよ!」シリーズは、読み聞かせを主体にした絵本であり、生態の詳しい説明には自ずと限界がある。かと言って、簡潔な表現のみでは登場する昆虫の生態について誤解を招きかねない。
もっとも、そのような難しさはことアブラムシに限ったことではなく、この類の絵本では常に細心の注意を払いながら手掛けてきた。

一旦は躊躇したけれど、それでも「引き受けます」と思い直した理由の一つは、私が20代の頃に学研映画の『アブラムシの生態』という仕事に関わったことを思い出したことだ。
40年近くも昔のことだけに、記憶はかなり遠のいて久しかった。
この映画は中学1年理科の教材映画で、16ミリ映画(ビデオ版もあり、19分)。タイトル通り、アブラムシの生態を描いている。今では地方都市のどこかのライブラリーでは閲覧できるのかもしれないが、映画フィルムやビデオそのものは入手不可能のようだ。私自身、この映画が完成した時の試写を観て以降、一度も目にしていない。
演出助手としての私の仕事は、撮影に必要なアブラムシを集め飼育管理し、撮影の舞台を準備したり、ほかには細々とした雑用など。スタジオ撮影も多く、長時間待機のときには、カメラマンの方と交代でファインダーに縋り付いたりもした。25歳当時、私はアブラムシについてはまったく無知であり、手探りで始めた採集・飼育では苦労も多かった。
演出の方が書いたシナリオに沿って、撮影の内容や手順をその都度、相談しながら進めていくのだが、ただでさえ情報の少ないアブラムシ。当時はネットもない時代だから、目の前に起きる現象の多くは私にとって未知に溢れた世界だった。
毎日、新鮮で驚きの連続でもあったから、苦労は多いけれど、やりがいがある仕事だったと今になっても思える。
それは例えば、私が観察で発見した行動を提案して、それが実際に撮影に起用されたシーンもある。シナリオには無かったシーンを追加できたことは、昆虫カメラマンを目指していた私としては、大きな自信にも繋がった。
そうした、映画のなかの様々なシーンを撮影するために行った観察や準備や撮影法の工夫など、数々の想い出を辿っていくうちに、『うまれたよ!アブラムシ』は、自分がやらねば、と決心を固めたのであった。