2020年09月01日

ツノトンボの卵

ハグロソウに虫が来ていないか見に行っての戻り、(虫は来なかった)

隣の空き地のエノコログサに、ツノトンボの卵がびっしり並んでいた。


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草地環境さえあればそれほど珍しい虫でもないが、昼間は草陰にじっとしているので、案外、成虫に出会す機会は少ない。卵はご覧のようにイネ科植物の茎に並べて産み付けることが多いので、その気になればすぐに見つかる。
産み付ける高さは、地面から30〜40センチの範囲。

2010年9月13日の「ひむか昆虫記」に、「卵のふ化は午前中に行われ、それも正午前頃が多い」と書いてあった。
自分で書いておきながらすっかり忘れていたが、ふ化の様子も撮影していた。ふ化は一斉に始まるが、ある程度ばらつきもあり、一つの卵塊で「全部のふ化が終了するのに30分程度」とまで書いてある。


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ふ化した幼虫は地面に降りて散り散りになる。
肉食だから各々、孤独な生活を送る。小さな幼虫がどんな獲物にありつくことができるのだろうか?
当然、様々な天敵の餌食にもなるだろう。

写真の卵塊は、45コ。仮に全部45頭がふ化したとして、生き残るのは一体、そのうちの何頭になるだろうか?
全滅、ということだってあるのだろう。どこで、どうやって、どんな糧を得て成長していくのか、
その詳細を知りたいし、できることなら聞いてみたい、というのが私の抱き続けている想いだ。

しかし、相手は小さな小さな虫だ。姿を見つけるだけでも容易ではない。
ましてや、24時間、張り付くわけにもいかない。24時間とまでいかなくとも、なりふり構わず、観察に没頭することは可能だ。やれるだけやってみることは、成果の程はともかくも、意欲と情熱があればできないこともない。
けれど、想像するに、それをやり通すとすれば、例えば、とっくに私の家庭は崩壊していただろう。

ずいぶん昔になるが、ツノトンボ類の生態にのめり込まれた昆虫写真家の方がいた。
年齢もキャリアも、私にとっては大先輩、Tさんだった。
Tさんに請われて、私が知っていたキバネツノトンボの生息地(群馬県)を案内したことがある。
Tさんはそのフィールドをたいそう気に入って、現場近くの宿に泊まり込み、観察を続けた。
長期滞在しているなかで、周辺の生息地も次々と見つけられたようだが、私が案内したポイントが一番密度が濃いということだった。
お役に立てて私も安心したが、一方では、とても自分には真似ができないことだと思った。

Tさんの現役時代は科学者だった。その科学者魂は引退した後も延々と燃え続けたのだ。
科学者として自然を見つめる姿勢は尊敬できたし、学ぶべきことは多い。
しかし、
昆虫写真家として稼ぐ道筋にはいささか遠いものがあった。真似してやりたくてもできないジレンマも感じた。
Tさんが羨ましいとは思いつつも、どこまで、なりふり構わず観察に時間を割くかは、やはり自分なりにここまで、という線引きが必要だった。
それでも、自分のようなおざなりな自然観察であっても、それを長年継続しているとそこそこには勘所も冴えてくる。
この勘、というのは自分にとっては、ささやかなものであれ、もっとも大事な財産には違いない。



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posted by やまかます at 19:49| アミメカゲロウ